東京高等裁判所 昭和25年(ラ)249号 決定
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(事実及び判斷)
抗告人の申立による相手方所有の不動産に対する競売事件において、原裁判所は昭和二十二年十一月十二日附の評価にかかる最低競売働格に基いて競売手続を進行し、昭和二十五年八月二十五日競落許可決定をなしたところ、相手方はこれに対し即時抗告をなし、右最低競売価格はその後約三カ年を経過して著しく低廉になつたのに、これを改めることなく競売手続を進行し競落許可決定をなしたのは違法である、と主張した。原裁判所は右主張を理由ありと認め、再度の考案により自ら同決定を取消した。本件はこの取消決定を不当であるとして抗告人より抗告したものである。
抗告棄却、その理由はつぎの通りである。
「思うに、不動産競売事件において、差押えた不動産を換価するには公正妥当な価格によることを本旨とするものであつて、もし普通の売買価額よりも不当に安い値段で競落するようなことになつては、利害関係人に損害を蒙らしめることが多大であるから、民事訴訟法第六百五十五条は先ず、鑑定人として不動産の普通の売買価格を評価させ、その評価額をもつて最低競売価額とする旨を定め、その価額以下では競落させないことを期したのである。それ故に裁判所はその評価額が異常に低廉で、利害関係人に不当な損害を蒙らしめるものと考えるときは更に他の鑑定人をして不動産を評価させた上公正妥当な最低競売価額を定めねばならないことは勿論であるのみならず、更に同条の立法趣旨に照らせば、一旦公正妥当な最低競売価額を定めたとしても手続の進行が遲れ、競売期日までの間に経済上の異常なる変動がおこり、不動産の価額の高騰が甚だしくなり、その最低競売価額をもつて競落を許すことが社会通念上不相当と思われるような事態が生じ、競売の公正を期する法意に副わなくなつた場合には、裁判所は、よろしく更に鑑定人をして、時価を評価させた上最低競売価額を改定すべきであつて、これにもとずいてこそ初めて競売手続を公正に遂行し得るものとなすべきである。もし裁判所がかような措置を採らないで、漫然さきの評価にもとずく最低競売価額を改めることなく、これをその儘競売期日の公告中に記載し、これによつて競売の手続が進められたような場合には、結局右は同法第六百五十五条の最低競売価格を正当に定めないで公告したものであるから、利害関係人は同法第六百八十一条第六百七十二条第四号に所謂競売期日の公告に第六百五十八条第六号の要件の記載のない場合に該当するものとして、これを理由として競売許可決定に対し抗告することができるものと解するを相当とする。
本件記録によると、原裁判所は本件の(一)乃至(四)の四筆の不動産に対する競売手続において、昭和二十二年十月十三日不動産競売手続開始決定をなし、同年十一月十二日附鑑定人松村金造の評価にもとずき(一)の宅地八十八坪については金一万四千百円、(二)の宅地八十一坪については金一万六千七十五円、(三)の山林一反一畝二十一歩(現況は田地)については金一万七千五百五十円、(四)の畑一反歩(現況は宅地)については金一万八千円とそれぞれその最低競売価額を定めその後昭和二十五年九月二十六日午前十時及び同月二十七日午前十時とそれぞれ定められた同年八月二十五日の競売及び競落期日の公告には前示各土地についての最低競売価額が従前の儘記載され、その公告にもとずき行われ右最低競売価額をもつて競落についてその許可があつたものであることが明かである。以上の事実によつて考えると本件不動産の最低競売価額が定められたのは昭和二十二年十一月十二日、競売期日の公告のあつたのは昭和二十五年八月二十五日、競落許可のあつたのは同年九月二十七日であつて、その間において生起した経済上の変動は甚だしいものがあり、不動産の価額の高騰も極めて顯著で到底通常の事態でないことは公知の事実である。したがつて、東京都杉並区和泉町及び永福町所在の本件不動産の価額も右の期間における経済上の激変の影響をうけ、多大の高騰をしたものであることは推察に余りあるところであるから、右競売期日の公告に記載された右最低競売価額は法律の趣旨に照らしもはや正当な最低競売価額でなくなつたと断ぜざるを得ない。それにもかかわらず、原裁判所は漫然右価額をその儘競売期日の公告に記載して、これを公告しこれにもとずき右競落を許可したのは失当であるから、前段理由の説明によつて明かなように本件競落許可決定に対する債務者のなした抗告はその理由があるので、原裁判所が民事訴訟法第四百十七条第一項にもとずき再度の考案により自ら同決定を取消したのは正当であるとしなければならない。」